高遠原:ほら、キョロキョロしない。
朝霧:だって、初めて来たから、珍しくって。
高遠原:気持ちは分かるけど……。はい、メニュー。
朝霧:ありがと。わ~、何食べよっかな~。
高遠原:俺はこれでいいや。ロースステーキセット。
朝霧:あ~、それも美味しそうだね。
高遠原:結衣ちゃんは何にするの?
朝霧:ん~と。うん、これに決めた! デラックスハンバーグセット! なんたって、デラックスだからね。
高遠原:もちろん、ドリンクバーも付けるよね?
朝霧:ドリンクバー?
高遠原:……、え? まさか知らないとか?
朝霧:知らないよ! だから来たことないって言ったじゃん!
高遠原:わ、分かった、分かった。悪かったよ。
朝霧:で、ドリンクバーって何?
高遠原:簡単に言うと、所定の金額を払えば、色んな飲み物が好きなだけ飲めるというシステムだよ。
朝霧:つまり、飲み放題ってことなの?
高遠原:そういうこと。
朝霧:すごい! そ、それも注文する!!
高遠原:分かったから、大声出さない。
朝霧:注文は? 早く注文しようよ!
高遠原:はいはい。
朝霧:美味しいね。
高遠原:うん、美味しいね。
朝霧:ジュースも美味しい。
高遠原:さっきからよく飲むね。
朝霧:だって、飲まなきゃ損だよ。
高遠原:そりゃまあそうだけど。飲み過ぎるとお腹壊すよ。
朝霧:大丈夫!
ジュース取って来るけど、師匠は?
高遠原:俺はいい。まだコーヒーが残ってるから。
朝霧:じゃ、行って来ま~す。
朝霧:は~。お腹いっぱい。
高遠原:……、よく食べたというより、よく飲んだよね。
朝霧:うん。ドリンクバー堪能しました~。
高遠原:じゃあ、祝勝会始めようか?
朝霧:うん。
高遠原:何はともあれ、今回はマイネルキッツをちゃんと買えたことに尽きるね。
朝霧:12番人気だったんだよね。そんな人気薄を自信たっぷりに買える師匠はやっぱりすごいよ。
高遠原:うーん。俺がスゴイというより、マイネルキッツの人気が無さ過ぎただけだよ。前哨戦のレース分析をちゃんとやってれば、何の躊躇も無く買えるんだけどね。
朝霧:前哨戦のレース分析をちゃんとやったから、逆に1番人気のアサクサキングスはばっさり切れたんだよね。
高遠原:そういうこと。
朝霧:そのレースの予想よりも前に重要なことがあるってことだね。競馬って、怠け者には無理だね。
高遠原:天才的な博才がある人は別だろうけど、そうかもしれないね。
朝霧:改めて師匠のスゴさを実感しました。
高遠原:そんなに持ち上げられると、何か落ち着かないな。それに、反省しなきゃいけない点もあるんだ。
朝霧:的中して、利益も出たのに?
高遠原:本当だったら、完全的中も充分可能だったんだ。
朝霧:ドリームジャーニーのこと?
高遠原:そう。産経大阪杯のラップ分析をした時に、日経賞とラップ構成が似ているという話をしたのは覚えてる?
朝霧:覚えてるよ。天皇賞(春)と産経大阪杯の距離の違いが1200mもあるから、より距離が近い日経賞組を上位に見たんだよね。
高遠原:うん。だけど、結果論で言えば、1着だったドリームジャーニーは買っておかなきゃいけなかったんだ。買える要素は充分あった訳だしね。
朝霧:それはそうかもしれないけど……。
高遠原:逆に、スクリーンヒーローは買わなくて良かったんだよ。阪神大賞典組は疲労が残る筈だから要らないと判断してるのに、スクリーンヒーローだけは休養明け初戦だったからそんなに疲労が残らないだろうなんて勝手な解釈を付けて買ってしまったんだよな。スクリーンヒーローを切って、ドリームジャーニーを買うのが正解だったんだよ。
朝霧:師匠、反省じゃなくて、何か愚痴に聞こえるよ。もういいじゃん。そうそう上手くは行かないって。私は完全的中じゃなくても、利益が出ただけで充分嬉しいよ。
高遠原:そうは言っても、ちゃんと振り返っておかないと――。
朝霧:もう! 今日は祝勝会だよ! もっと素直に喜ぼうよ。
高遠原:……、そうかもしれないな。
朝霧:そうだよ。今日のところは的中おめでとうでいいんだよ。
高遠原:そうだね。じゃあ、改めてジュースで乾杯しようか?
朝霧:う、う~ん。それは……。
高遠原:どうした? さすがにもうジュースはいらないか。
朝霧:う、うん。あの……、師匠?
高遠原:ん?
朝霧:実は、お腹、痛い。
高遠原:だから言わんこっちゃない!!
高遠原:コロッケ丼、美味しかった?
朝霧:うん、美味しかったよ!
高遠原:そりゃ、良かった。
朝霧:コロッケ2個も買ってもらって、ありがとうございました。
高遠原:どういたしまして。
朝霧:師匠にも食べて欲しかったけど、会社の女子寮、男子禁制だから……。
高遠原:ああ、いいよ。気にしないで。
朝霧:今度馬券が当たったら、その時は私が師匠に何か奢るね。
高遠原:じゃあ、コーヒーでも奢って貰おうかな。
朝霧:うん、いいよ。
高遠原:さて、今回は反省会じゃなくて、祝勝会だ。
朝霧:やったー、祝勝会!
でも、何するの?
高遠原:まあ、簡単にレースを回顧するだけだから、いつもと変わらないんだけどね。あとは、そう
だな、的中した喜びを思い出してニヤニヤするよ。
朝霧:ニヤニヤするんだ(笑)。
高遠原:うん、ニヤニヤする(笑)。
じゃ、早速始めようか。
朝霧:うん。
高遠原:今回は何といっても4番人気のリトルアマポーラを拾えたことが大きいね。
朝霧:そういえば気になってたんだけど、師匠はこの馬、騎手で買いたいって言ってたよね?
高遠原:うん。言ったね。
朝霧:ルメール騎手って、巧いの?
高遠原:巧いと思うよ。
ディープインパクトは知ってるよね?
朝霧:知ってるよ。史上最強馬でしょ? ルメール騎手と何か関係あるの?
高遠原:ディープインパクトを国内で唯一負かした馬は知ってる?
朝霧:有馬記念だよね、確か。えっと、ハーツクライだっけ?
高遠原:正解。で、そのハーツクライに乗ってたのがルメール騎手だったんだよ。
朝霧:そうだったんだ! そりゃ、師匠も買いたくなるね。
高遠原:ルメール騎手というだけで買った訳じゃないけどね。
朝霧:リトルアマポーラにも買える要素があったってこと?
高遠原:うん。元々この馬は期待されてた素質馬だったんだ。その証拠に、桜花賞は2番人気、
オークスは1番人気に推されてたんだ。ぶっつけ本番となった秋華賞では6番人気と
人気を落としたけど、勝馬から0.3秒差の6着なら悪くない成績だったしね。そんな馬に
ルメール騎手が乗ってきたから買ったんだよ。
朝霧:成程。
高遠原:こういう素質はあるのに成績はいまひとつという馬に腕の立つ外国人騎手が乗ってきた
時は要注意だよ。馬の本来の力を引き出していきなり好走するケースがあるからね。
朝霧:そっか~。今後の為に覚えておこうっと。
高遠原:カワカミプリンセスとベッラレイアは期待通り。これぐらいは走ってもらわないとね。
朝霧:うん。
高遠原:ムードインディゴはやっぱり秋華賞がピークだったんだろうね。今年はもう無理せずに
休養して欲しいね。エフティマイアは実は悪い予感もしてたんだけど、その予感が当たっ
てしまったよ。
朝霧:悪い予感って?
高遠原:崩れるならこのレースかなという思いもあったんだ。
朝霧:じゃあ何で買ったの?
高遠原:今年の3歳牝馬三冠レースで、ずっと掲示板に載り続けたのはこの馬だけだったんだ。
だから、3歳勢の安定勢力として期待したんだよ。勝たないまでも2着か3着に来てくれ
ないかなとね。
朝霧:そうだったんだ。エフティマイアって地味に強い馬だったんだね。
高遠原:地味にね(笑)。
朝霧:そういえば、ポルトフィーノの落馬にはびっくりしたね。
高遠原:そうだね。スタートしていきなりだったしね。
朝霧:馬って騎手がいなくてもレースするんだね。そっちにもびっくりしたよ。
高遠原:いや、それはポルトフィーノが賢い馬だからだよ。この馬は間違いなく競馬を理解してる。
普通の馬なら好き勝手に走るだけなんだけど、この馬は落馬直後に馬群を縫って先頭に
立ったし、4コーナーでは逸走しながら、直線で先頭を走っていたリトルアマポーラに並び
かけて抜き去ったからね。
朝霧:じゃあ、本当ならポルトフィーノが1番強かったってこと?
高遠原:それはどうかな。確かに他の馬たちより長い距離を走ったのは確かだけど、何せ54kgの
負担重量がゼロになってた訳だからね。まともならポルトフィーノが勝っていたっていうの
は違うと思うよ。
朝霧:それもそうだね。
高遠原:さて、ニヤニヤタイムはそろそろお開き。次も頑張らないとね。
朝霧:うん。次のGⅠも勝ちたいね。
高遠原:もちろんそのつもりで予想するよ。
朝霧:期待してます♪
高遠原:今度はもっと美味しい物食べられるように頑張るよ。
朝霧:えー、コロッケ丼でいいよ~。
高遠原:そ、そう?
朝霧:うん。
高遠原:……(この子には欲というものが無いのか?)。